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東京地方裁判所 昭和41年(特わ)297号 判決 1969年2月25日

本店所在地

東京都調布市上石原一三七番地

大村興業株式会社

右代表者代表取締役

大村一郎

国籍

韓国慶尚南道昌寧郡南旨面樹斤里三五三番地

住居

東京都調布市上石原一三七番地

会社役員

大村一郎こと辛容鳳

一九二八年一一月一一日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官川島興、弁護人小田良英出席の上審理して、次のとおり判決する。

主文

被告会社を罰金七〇〇万円に被告人辛容鳳を懲役六月に各処する。

被告人辛容鳳に対し、この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告会社および被告人辛容鳳の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は、東京都調布市上石原一三七番地に本店を置き、砂利・砂の生産販売等を営業目的とする資本金二〇〇万円の株式会社であり(昭和四〇年七月二五日商号を従来の大村建材株式会社より被告会社に変更)、被告人辛は右会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人辛は被告会社の業務に関し、売上の一部を脱漏して簿外預金を設定し、貸付金の一部を雑損失に計上する等の準備手段を講じて虚偽過少の申告を行う不正な方法により法人税を免れようと企て

第一、昭和三七年四月一日より同三八年三月三一日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が一七、六一四、八八六円あつたのにかかわらず、昭和三八年五月三一日東京都立川市高松町二丁目一七六の二番地所在の立川税務署において、同税務署長に対し、所得金額は二、八二八、八八九円でこれに対する法人税額は七九八、九四〇円である旨の虚偽の法人税額確定申告書を提出し、よつて被告会社の右事業年度の正規の法人税額六、四五〇、一九〇円と右申告税額との差額五、六五一、二五〇円を法定の納付期限までに納付せず、もつて詐欺その他不正の行為により同額の法人税を免れ

第二、昭和三八年四月一日より同三九年三月三一日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が六三、八四七、八二五円あつたのにかかわらず、昭和三九年六月一日前記立川税務署において、同税務署長に対し、所得金額は一七、六六六、一九四円でこれに対する法人税額六、五八八、六〇〇円である旨の虚偽の法人税額確定申告書を提出し、よつて被告会社の右事業年度の正規の法人税額二四、一三七、六一〇円と右申告税額との差額一七、五四九、〇一〇円を法定の納付期限までに納付せず、もつて詐欺その他不正の行為により同額の法人税を免れ

たものである。(判示各事業年度のほ脱所得の計算は別紙第一および第二の修正損益計算書記載のとおりである。)

(証拠の標目)

略語・(上)=上申書。(大)=大蔵事務官に対する質問てん末書。

(検)=検察官に対する供述調書

末尾のカツコ内の数字は別紙第一または第二の修正損益計算書の各勘定科目の番号を示す。

事実全般につき

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告会社代表者作成の(上)一一通、(大)五通、(検)二通

一、大村良子こと盧英淑の(大)二通

一、小山清治郎の(大)

一、市瀬英男の(大)

一、石山靖雄の(検)

一、増岡源吾の(検)

各事実につき

一、増岡源吾の昭和四〇年七月一七日付(上)第二1.2.3.31)

一、塩野入五郎の(上)(第一1.3.4.5.8.9.18.29.30.第二1.2.3.4.)

一、木下藤太郎の(上)(第一21)

一、今井兼太郎の(大)(第二1)

一、佐伯邦彦の昭和四〇年四月二日付(上)(第二1.3.)

一、吉田庄一の(大)二通(第二3)

一、森部一の(上)(第二1.3.)

一、鹿島平吉の(上)(第二31)

一、土田惇士の(上)(第二31)

一、大蔵事務官富田有作成の

イ  銀行調査書類(第一1.6.7.9.10.11.14.22.29.31.第二3.6.23.28.)

ロ  公表に見合う損益元帳(第一、第二)

ハ  預金残高調査表(第一29.第二28.)

ニ  期末受取手形、割引手形、未経過利息割引料の調査表(第一32.第二30)

ホ  斉藤良二との貸借取引調書(第二31)

ヘ  土地、砂利、山砂購入調査表(第一2.3.4.第二2.3.31.)

ト  担保取得土地の評価(第二31)

チ  税金納付状況調(第一16.35.第二17.37.38.)

リ  銀行借入金、未経過利息、支払利息戻り利息調査表(第一32第二30)

ヌ  売上計上洩調査表(第一1.第二1)

ル  預金利息明細表(第一29.第二28)

オ 国立町役場収入金額調査表(第二1)

ワ  (株)大塩組との取引金額調(第一1.3.5.8.9.18.29.30.第二1.3.)

カ  東京物産との取引金額調(第一1.36)

ヨ  法人税額計算書(第一35)

タ  所轄税務署の所在地確認書

一、大蔵事務官遠藤昌司作成の

イ  自動車関係減価償却及び売却損益調査表(第一12.31.第二12.29.32.)

ロ  未経過月賦手数料の計算二通(第一37第二33.)

一、大蔵事務官小林伊之助作成の調査てん末書(第二3)

一、売上帳七綴(当庁昭和四一年押第九六四号の1)(第二1)

一、支払利息計算メモ一綴(同押号の7)(第一29)

一、売上帳一綴(同押号の8)(第一1)

一  契約書写一綴(同押号の一〇)(第一1)

一、法人税申告書三綴(同押号の一一)(第一、第二)

(弁護人の主張に対する判断)

一、判示第一事実関係について

弁護人は「判示第一の事業年度において、被告人が過少申告をなした事実は争わないが、これは被告人が脱税の計画ないし悪意をもつてなしたことではない。被告会社は昭和三七年三月事務所を類焼されたため適正な決算が組めず、しかも昭和三九年二月に立川税務署が被告会社の取引先である大塩組等の取引先を調査するに及んで始めて被告会社の簿外売上げが判明したのである。従つて、同年六月四日被告会社は同事業年度の所得額を二二、四五三、一二七円とする旨の修正申告書を自発的に提出したが、同税務署は不当にも受理を拒んだ。しかしながら、右修正申告額は、公訴ほ脱所得額をはるかに上廻る多額のものである。右修正申告が適法に受理されなかつたとはいえ、右修正申告において多額の納税をしようとしたことにより被告人および被告会社は無罪である。」旨主張する。

しかしながら、被告人は、売上の一部を公表用帳簿に記載せず、砂利、砂、土地の売上金の一部を簿外預金にするなど所得の秘匿手段を講じていたことは関係証拠により認み得るし、その経理もいわゆるドンブリ勘定でずさんきわまりないものであつたこと、被告会社の事業資金蓄積のために過少申告するに至つたこと等を自認しているのであつて(被告人の当公判廷における供述、被告人の検察官に対する昭和四一年五月七日付供述調書)、被告人が右事業年度において、各取引額の明細内容について知悉しなかつたとしても、売上の脱漏、さらには申告所得額および税額が、真実のそれらに比し虚偽過少であつたことの概括的認識を有していたことは証拠上明白である。

被告人は、税務署の調査が入るや、弁護人所論のように納期徒過後の昭和三九年六月、公訴ほ脱所得額を上廻る所得の修正申告を試みたが税務署に直ちに受理されなかつたことがうかがわれるけれども、虚偽過少の申告による法人税ほ脱罪は、当該事業年度の納期の徒過により既遂となるものであるから、納期後すなわち犯罪の既遂後になされた修正申告はたとえそれが適正であつたとしても、情状の上ではとも角、犯罪の成否に影響を及ぼすものではない。弁護人の右主張は失当である。

二、売上関係(別紙第二1)について

関係証拠によれば、別紙第二1の売上の中ほ脱分九四、五一八、五一一円の内容は次のとおりと認められる。

(一)  大塩組 三、四八七、〇三七円

(実際額 20,581,680円-申告額 17,094,643円)

(二)  調布市上石原二一六外山林六二八・七六坪 四四、〇〇〇、〇〇〇円

(三)  関根組外四件 一、四三五、五四五円

売上先 簿外、分(円) 公表分(円)

関根組 16,800

桜井砂利店 368,745

尾崎砂利店 100,000

三建興業 900,000 100,000

金本砂利店 50,000

合計 1,435,545 100,000

(四)  内山組外 一、四六四、九四四円

(五)  国立町 四四、一三〇、九八五円

a 収入合計 123,951,625円

b 農林省所有地還付金 1,561,140円

c 公表計上 78,259,500円

a-b-c=44,130,985円

弁護人は「(一)の大塩組に対する売上脱ろう分については脱税の意思なく、(二)の調布市の土地は増岡源吾の名義で売上げ、その利益分を同人名義の個人所得として申告をなし、むしろ被告会社が納税すべきものより多額を納税したが、後日税務署より行政指導を受けて修正した。しかし経理の筋は違つていでも被告人が増岡名義で納税したのであるから、脱税の意思はない。(三)についてはすべて公表に計上ずみであり、(四)、(五)については内容自体を争う。」旨主張するので以下順次に検討する。

(一)について

当該事業年度を通じ、被告会社は株式会社大塩組との間に砂利、砂、土地等の継続的販売取引を行つていたところ、その取引金額、資金の出入、取引内容等の個々については、被告人としては必ずしもその内容、金額の詳細を確知していたとは認め難い。しかしながら、被告人は右大塩組関係を含め外の取引先に対する売上除外を行つていたことはすでに認定のとおりであり、大塩組に対しても簿外土地を売却する等し、経理においても正確な記帳を行わず、簿外預金の設定を行う等の所得秘匿手段を講じていたのであつて、申告に際しては申告所得額が真実の所得額に比し虚偽過少であることを、所得の内容の中継続的な取引に基づく売上、仕入れの総体について脱漏、虚偽分が含まれていることを概括的に認識していたものと認められる。かかる概括的認識が存すれば、法人税ほ脱罪の故意は成立するのであつて、弁護人の所論のように個々の取引部分につき脱税の意思の有無如何により、ほ脱所得額に増減が生ずるものと解すべきではない。弁護人の右主張は失当である。

(二)について

被告会社は右土地を昭和三六年一一月六日宗教法人八幡神社から一八、八〇〇、〇〇〇円で買受け、これを簿外資産としていたものであること、被告会社は昭和三九年三月一八日増岡源吾名義をもつて右土地を森部一に四四、〇〇〇、〇〇〇円で売却したのにこれを公表外としたことが関係証拠により認められる。従つて適正な所得計算の立場からは、右売上を計上し、同時に取得価格一八、八〇〇、〇〇〇円を土地勘定より振替え当期商品仕入に計上(土地勘定より振替分は別紙第二3に計上済み)しなければならない。ところで被告人は、右売上にかかる所得につきこれが被告会社に帰属すべきことを認識しながら被告会社の右事業年度の所得に計上せず、増岡源吾名義をもつて昭和四〇年三月一五日個人の所得税の申告所得に含め、本税、利子税等関係諸税を納付したが、後日その内容を修正されたことが関係証拠により認められる。

ところで、いうまでもなく個人および法人の所得については、真の所得の帰属者が納税義務者となるものであつて、担税力に応じた公平な税負担を実現すべしとする租税法上の原則からいつても、かかる所得の帰属関係をことさらにゆがめて虚偽申告するがごとき行為が租税法上許容されるものでないことは多言の説明を要しない。そして納税申告、更正ないし決定という一連の納税手続もかかる適正な租税債権関係を確定せしめ国の徴税権を確保する目的に奉仕すべきなのであるから、実体に反する虚偽申告による納税は、たとえそれが過大に申告されたものであつても修正されなければならない(国税通則法二四条二五条)。従つて法人に帰属すべき所得の一部を他の個人名義の所得をもつて申告、納税したからといつて、かかる個人名義の納税債務が適法に確定するわけのものではないばかりか、当該法人については過少の申告がなされる結果、国の当該法人に期待する租税債権は、個人名義をもつて納税されたか否かにかかわりなく、過少の限度において侵害されるものといわざるを得ない。

以上のとおりであるから、右売上脱漏分につきほ脱所得を構成しないとする弁護人の右主張は失当である。

(三)ないし(五)について

関係証拠により前示のとおり認定する。右認定をうごかすに足りる資料はないから、弁護人の各主張は採用しない。

三、雑損失-斉藤良二に対する貸倒損(別紙第二31)について

関係証拠によれば、別紙第二31の雑損失のうち斉藤良二関係の内容は次のとおりと認められる。

(一)  簿外貸倒損認容-一三、〇〇〇、〇〇〇円(減算)

斉藤良二に対する貸付金六四、〇〇〇、〇〇〇円は貸倒れと認める。被告会社は五一、〇〇〇、〇〇〇円を貸倒損に公表計上したのでこれを控除した額一三、〇〇〇、〇〇〇円を貸倒損に認容する。

(二)  貸倒損の否認-四四、七〇〇、四三六円(加算)

次の<イ><ロ>の合計額である。

<イ> 右貸付金中一〇、〇〇〇、〇〇〇円に対する担保物件である府中市紅葉ケ丘六〇六の三外四七一・五五坪のうちの一五五・七六坪(以下これを<イ>の土地という。)の評価額五、一六二、九八〇円より鹿島勇に対する未払金九九〇、九四四円

<省略>

を除算した額四、一七二、〇三六円

<ロ> 右貸付金中五四、〇〇〇、〇〇〇円に対する担保物件である府中市多摩町一の二九所在の畑六反五畝二一歩(以下これを<ロ>の土地という。)の評価額四〇、五二八、四〇〇円。

弁護人は「斉藤良二の貸倒れ六四、〇〇〇、〇〇〇円のうち申告にあたり担保とした<イ>の土地の担保価値を一三、〇〇〇、〇〇〇円と算定したが、<ロ>の土地は、当該事業年度において土地の所有権をめぐる紛争が介在したため、これをもつて弁済に充てる見込みはなかつたので担保物件としては評価し得なかつた。しかしながら、関係人や弁護士らの尽力により被告会社において右土地を取得し、債権回収の見通しを得たので、昭和三九年六月四日にこの分を加算した修正申告書を提出せんと試みたものである。」旨主張するので以下に検討する。

まず<イ>の土地の担保価額は前記認定のとおりであるからこの点の弁護人主張額は失当である。

次に被告会社の<ロ>の土地に対する担保権取得ならびに担保価額について考察する。前示関係証拠のほか証人秋根久太の当公判廷における供述、土地売買契約書(写)、債権譲渡証書、土地所有権移転請求権移転登記申請書謄本(写)をあわせると以下の事実が認められる。この土地はもと伊勢勘蔵所有の多摩町一の二九番地畑一町四反六畝二歩の一部分であつて、昭和三八年一二月一三日斉藤良二が同地上に存する村田泰治名義の抵当権設定登記を抹消してその約四五%にあたる六反五畝二一歩につき宅地転用を目的として譲渡(農地につき条件付に所有権が移転する。)を受けたのである。そして斉藤良二の代理人秋根弁護士が昭和三九年一月二七日被告会社の斉藤良二に対する前記五四、〇〇〇、〇〇〇円の債権を担保する目的をもつて同人が譲受けた<ロ>の土地を被告会社に譲渡する旨約し、被告会社は、同年二月五日<ロ>の土地につき斉藤良二より所有権移転請求権保全の仮登記を了したこと(但し仮登記権利者の名義人は被告会社ではなく増岡源吾名義である。)により、担保権を取得したものと認める。従つて当該事業年度における右担保物件の相当価額の限度で貸倒損は否認されなければならない。これをあたかも担保外であるとし、あるいは担保価値なしとして計上しなかつた経理は明らかに不当であるから、弁護人の右主張は失当である。

(法令の適用)

各事実に昭和四〇年法律第三四号附則一九条によりその改正前の法人税法四八条一項、二項、被告会社につきさらに同法五一条一項。

被告会社につき刑法四五条前段、四八条二項。

被告人辛につき(各懲役刑選択)、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条。

懲役刑の執行猶予につき刑法二五条一項。

訴訟費用の負担につき刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 小島建彦)

別紙第一 修正損益計算書

大村興業株式会社

自昭和37年4月1日

至昭和38年3月31日

<省略>

<省略>

別紙第二 修正損益計算書

大村興業株式会社

自昭和38年4月1日

至昭和39年3月31日

<省略>

<省略>

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